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【セミナーレポート】Lab.1 泥だけを持ち帰らない!園庭遊びの「育ち」を保護者に伝えるドキュメンテーション
「今日も、泥だらけで帰ってきました。」
園庭で思いきり遊んだ子どもの服を見て、保護者は何を思うでしょうか。「洗濯が大変」「ケガはなかった?」。そんな不安に、先生たちは「大丈夫です」と答えるだけでいいのでしょうか。
2026年10月19日の「育ちの環境Lab. Lab.1」で、2つの園が示したのは、その先にある答えです。鍵は、遊びの「結果」ではなく、「育ちの途中」を伝えること。園庭改修の不安を納得に変えた安養寺めぐみ幼稚園と、先生同士の対話で環境を育て続ける札幌だいいち幼稚園。2園の実践を、玉川大学の大豆生田啓友先生の解説とともにお届けします。
全編は動画(現在準備中)でご覧いただけます。この記事では、保護者への伝え方に悩む先生に、ぜひ持ち帰ってほしいポイントをまとめました。
この記事でわかること
泥汚れやケガへの不安を、保護者の「納得」と「信頼」に変える伝え方
園庭を大きく変えた園と、日々の対話で環境を育てる園、2つの実践
大豆生田啓友先生が語る、環境の「再構成」と要領・指針の方向性
育ちの環境Lab. Lab.1「泥だけを持ち帰らない!」の開催概要
日時:2026年10月19日(月)16:00〜17:30
形式:オンライン(Zoom)・参加無料
主催:おうちえん × ASOBIO(株式会社スマート・エデュケーション)
テーマ:ドキュメンテーションで保育の質と保護者の理解を深めよう
登壇者:
大豆生田 啓友 先生(玉川大学 教育学部 教授)
中臣 拓 先生(安養寺めぐみ幼稚園 副園長)
佐伯 真有 先生(認定こども園 札幌だいいち幼稚園 副園長)
長沢 秀平(株式会社スマート・エデュケーション / ASOBIO)
育ちの環境Lab.とは?「あそび=学び」を社会の当たり前に
育ちの環境Lab.は、事業の枠を超えて知見を持ち寄る、スマート・エデュケーションのチームです。目指すのは、「あそび=学び」が社会の当たり前になること。全国の保育現場の実践をもとに、子どもが育つ環境を先生方と一緒に考えています。セミナーや講演会、園内研修などを通して活動しており、Lab.1は全8回のオンラインセミナーシリーズの第1回です。
【事例①】園庭改修の不安を納得に変えたドキュメンテーション|安養寺めぐみ幼稚園
グラウンド型だった住宅街の園庭が、緑あふれる園庭に変わる。栃木県宇都宮市の安養寺めぐみ幼稚園(満3歳〜年長、園児30名程度)は、2024年秋にASOBIOの園庭改修を行いました。その舞台裏を、副園長の中臣拓先生が率直に語ります。
園庭が変わる前にあった、3つの不安

園庭の約2/5が自然豊かな環境に生まれ変わり、今も園の手で緑が広がっています。畑もできました。キーワードは「未完成の完成」。でも、改修の前には、こんな不安がありました。
行事の運営方法:園庭で行う運動会をどうするか
日常の遊びへの懸念:平面だからこそできる遊びがあるのでは
安全の保障:ケガ、虫、保護者の理解
「独断で進めたい気持ちもあった」と中臣先生は振り返ります。それでも選んだのは、先生たちとの対話です。「平面はどのくらい大切なのか」「ケガの経験を取り除きすぎていないか」。ASOBIOの担当者を交えた話し合いを重ね、全員が同じ方向を向いて施工の日を迎えました。
変わったのは、遊びだけじゃない
遊び:自然という不揃いな素材に、探求心をもって遊び込む子が増える。起伏や狭い場所が、運動遊びの種類も増やした。
職員:「遊びの種」が増え、環境をつくる意欲が高まる。先生が子どもを指導する場面は減った。
保護者:「自然が身近にあって嬉しい」という声が増える。家でできない遊びを園でしていると知り、「汚れへの納得感」が生まれた。
運動会が「遊びの延長」に変わる

園庭で運動会ができるのか。当初の大きな心配は、意外な形でほどけていきます。
合言葉は、「遊びを舞台に上げる」と「見栄えより、ストーリー」。昨年は、自然の中に隠したポケモンカード探しや、なりきり修行で園長・副園長を倒す遊び。今年は、迷路をつくって、そこで遊ぶこと。「練習しなければ」という考えから離れ、行事そのものを見直すきっかけになりました。
「汚れへの納得感」を生んだ、ドキュメンテーションの使い分け

毎日:アルバムに写真をアップ
日々:園内用の個人記録(職員全員で記録)
月1回以上:クラスのドキュメンテーション
2か月に1回以上:公開用の個人記録(ポートフォリオ)
年5〜6回:クラスだより
わが子が自然物や友だちとどう向き合って学んでいるかが見えるから、保護者は納得できる。当日は、年長児がテントウムシの観察からアリの巣の実験へと興味を広げていく実例も紹介されました。
自然と暮らして見えた、正直な課題

自然の管理:雑草と植栽の区別、枯れたものや折られたものへの許容。「やらない場所」「雑にやる場所」「しっかりやる場所」を分けて、気にしすぎないのがコツ。
正しい知識:実を食べる子への助言や、保護者に伝えられる情報が必要。
虫への対策:自然が増えれば虫は来る。それでも、懸念していたほどの危険は増えていない。
中臣先生は言います。「安心は、知ることで獲得できる」。最後のメッセージは、「未完成の完成を楽しむ」「少しずつでもやってみる」です。
【事例②】対話でつなぐ園庭の環境と遊び|札幌だいいち幼稚園
「この子は今、何をおもしろがっているんだろう?」。札幌市の認定こども園・札幌だいいち幼稚園(学校法人札幌慈恵学園)の先生たちは、毎日この問いから環境を考えます。副園長の佐伯真有先生が語るテーマは、「対話でつなぐ、遊びと環境」です。
季節の遊びより大切な、子どもの「いま」

春は虫眼鏡やジョウロ、夏は泥や色水、秋は野菜スタンプ、冬は雪。園庭は季節ごとに姿を変えます。でも、「この季節だから、この遊び」と用意するだけでは足りません。大切なのは、目の前の子が何に出会い、何をおもしろがっているのかを見ることです。
例えば、草花のすりつぶし遊び。同じ遊びに見えても、子どもが楽しんでいるものは違います。
色を楽しんでいる:色の違いが分かる透明の容器を用意する
感触を楽しんでいる:感触が変わる植物や、茶こしなどの道具を用意する
毎週水曜日の「遊びミーティング」

観察と環境づくりを、一人で抱え込まない。そのために生まれたのが、毎週水曜日に、集まれる職員で行う「遊びミーティング」です。
事前にドキュメンテーションで、夢中になっている遊びを共有する
「今こんな遊びが出ている」だけでなく、困りごとや「この子たちは何をおもしろがっている?」という問いを持ち寄る
参加できない職員(パートや補助の先生など)は、付箋機能に気づきやアイデアを書き込んで参加する
佐伯先生が強調するのは、「遊びの共有は、やればいいってもんじゃない」ということ。共有が目的ではなく、次の日の保育が一つでも動くことが大切です。アイデアが出ないときは、ミーティングをやめて園庭へ。体を動かしながら環境をつくることもあるそうです。
保護者に届けるのは、「結果」ではなく「育ちの途中」

何に気づき、何を試し、どこでうまくいかなかったのか。完成した姿だけでなく、その途中こそを伝えます。2つの実例を紹介します。
5月「掘って、登って、跳ねて」:泥場の遊びが始まった頃の発信。保護者から、「どれくらい楽しんで、どのくらい汚れたものが戻ってくるのか楽しみにしています!」とコメントが届く。
10月「泥だらけ、その先に」:けんかや、思い通りにいかない場面も、動画を交えて、折り合いをつける過程をありのままに伝える。保護者から「いい環境にいるんだなと改めて思いました」とコメントがあり、泥だらけの服を洗うことさえ、「思いきり遊んだ証」として受け止めてもらえているそうです。

環境を変えたい先生への、3つのヒント

小さな一歩から:「いいな」と思ったことを、できる範囲で
子どもと一緒に:大人だけで頑張らない。子どもも環境をつくる一員
喜びを分かち合う:変化や喜びを、保護者や仲間と味わう。そのためのドキュメンテーション
大豆生田啓友先生の解説|環境の再構成とドキュメンテーション
2園の実践を、大豆生田先生はどう読み解くのか。ポイントを絞ってお届けします。
安養寺めぐみ幼稚園へ
これまでの当たり前を、葛藤しながら問い直している。リーダーが方向を示しつつ、職員と話しながら進めたことが大切。
環境が変わると、遊びが変わり、行事も見直しやすくなる。子どもも先生もワクワクし、先生が「残しておきたい」と思う記録は、保護者への発信としても魅力的になる。
自然を取り込むことは、命を取り込むこと。悩みが生まれるのは当然で、持続可能な社会を考える機会でもある。
札幌だいいち幼稚園へ
すべての出発点は観察。「その子が今、何を見ているのか」を見ること。
環境は、つくって終わりではない。子どもも「作り手」として、つくり変え続ける。
遊びミーティングは、園内研修の根幹。語り合える風土づくりと、付箋でパートや実習生など周辺の人も参加できる場づくりが大切。
ドキュメンテーションは「〜していました」の記録ではない。その子にとって泥はどんな育ちかを語ると、保護者も巻き込める。
要領・指針の方向性(取りまとめ案の段階)
保育所・幼稚園・こども園が同じ教育として考えられ、0歳から18歳まで学びがつながる。
質のキーワードは「遊びの深まり」。ただし、遊びを発展・連続させれば深まる、というのは落とし穴。
だから、環境を通した保育として、環境を構成し、再構成し続けることが重要。
保護者は、サービスの受け手ではなく、パートナー。
例えば、葉っぱをじっと見つめた0歳児の姿から、「部屋にも葉っぱを置いてみよう」と考える。外のおもしろい経験を、室内でも違う形で出会えるようにする。これが環境の再構成です。
なぜ園庭の泥汚れは誤解されやすい?プロセスの可視化が鍵
同じ泥汚れでも、子どもには「夢中の証」、保護者には「洗濯物」に見える。このズレは、なぜ生まれるのか。園庭づくりの伴走者として、株式会社スマート・エデュケーションの長沢秀平が整理します。
なぜ今、園庭環境を見直すのか
近所の公園では、遊具の撤去や植栽の伐採が進み、禁止事項の看板が並ぶ場所が増えています。園で過ごす時間が長くなっているいま、せめて園の環境だけでも、さまざまな体験ができる場にしたい。全国に約4万の施設があり、一つひとつが少しずつ見直せば、大きな変化になる、と長沢は言います。
2園の共通点は「可塑性の高い環境」
安養寺めぐみ幼稚園は大きな変化、札幌だいいち幼稚園は日々の対話と小さな変化。進め方は違っても、どちらも、答えが決まっていない遊びが生まれる、可塑性の高い環境です。
可塑性の高い環境で、何が起きるのか

子ども:答えがないから夢中になり、服が汚れる。他者と関わるから、けんかやケガも起こる。主体的に関わっている証拠でもある。
保護者:何が育ったのか分からず、泥だらけの服やケガの痕に、不安や不満を感じる。プロセスが見えないと、クレームにつながることもある。
保育者:保護者に悲しい思いをさせたくない、「ダメ」だと思われたくない。守りに入り、トラブルを避ける無難な保育に縮小してしまうことがある。
鍵は「プロセスの可視化」
結果だけを伝えると、「どちらの子が悪いのか」という二元論になりがちです。なぜ汚れるまで没頭したのかというストーリーと、先生の保育の意図を、写真と言葉で伝える。すると、保護者の受け止め方が、不満・不安から、納得感と信頼に変わります。
「遊びは子どもの仕事」。大人が本気で仕事をして作業着を汚すことと、子どもが本気で遊んで服を汚すことは同じです。先生も保護者も、汚れやトラブルをオープンに許容する文化をつくる。それが第一歩だと長沢は伝えます。
伝え続けるために、ICTを活用する

大切さは分かっていても、手書きで一からつくる負担が大きいと続きません。2園には、ICTを活用しているという共通点もありました。
熱量の再現:動画で、言葉では伝わりにくい部分を補う
対話の創出:付箋機能で、時間を合わせにくい職員も一緒に考える
タイムリーな循環:保護者も、自分のタイミングで見られる
国の幼児教育ワーキンググループの取りまとめでも、記録と振り返りの充実が示されています。
ASOBIOが目指すもの、そして「一言に負けない」ために

大規模な園庭改修が終わったら完成、ではありません。できた瞬間が始まりです(未完成の完成)。先生たち自身が環境を変え続けられるよう、先生たちと一緒につくることを大切にしています。
「なんでこんなに汚れているんですか」という一言に負けないために。環境を再構成し続けること。対話をやめないこと。「泥だけを持ち帰らない」の裏にある「探究のストーリー」と「成長のワクワク」を、一緒に共有しましょう、と長沢は呼びかけます。
質疑応答|ドキュメンテーションの運用・運動会・けんかの伝え方
当日は、参加者からの質問にも、登壇者がその場で答えました。気になる4つを紹介します。
Q1. 先生同士の対話が生まれ、子どもを見取る文化をつくる第一歩は?(佐伯先生)
最初から楽しめていたわけではありません。「本当にこれでいいのか」という葛藤もありました。それでも、子どもの姿が変わっていくのを見て、少しずつ進んできたそうです。園内研修で言われた「先生たち一人ひとりが楽しそうなところが、この園の良さ」という言葉を、今も大切にしています。
Q2. ドキュメンテーションで、可視化や語り合いはやりやすくなった?(中臣先生・佐伯先生)
中臣先生:職員全員が見ていない場面も、画像や動画で理解できるように。クラスの発信は月1回以上で、公開用のポートフォリオと園内用の記録は分けている。語り合いの種になるのは、画像や動画。
佐伯先生:月案より、動画や写真のほうが言葉が出る。クラスの発信は最低でも週1回。語り合いは「量が増えた」というより、素材があるので語り合いやすくなった。
Q3. 運動会の練習を変えて、保護者の反応や小学校との接続で困ったことは?(中臣先生)
受け入れてくれる保護者がほとんどだったそうです。運動会の前は、ドキュメンテーションをしっかりつくり、迷路遊びにまだ4割ほどしか遊び込めていない事実も含めて伝えます。小学校との接続で、特に困ったことはないとのことです。
Q4. けんかや泣く姿を載せるときの判断基準は?(佐伯先生)
撮ることより、まず見ること。判断基準は「伝わりやすいかどうか」です。10月の泥場でのけんかの投稿は、別のクラスや、泥遊びがあまり好きではない保護者にも見られ、コメントやいいねが寄せられました。何を大切にしているかを、具体的な子どもの姿で伝えるから、多くの人に届くのです。
園庭遊びを保護者に伝える5つのポイント
2園の実践と解説を、5つのポイントにまとめます。
結果ではなく、過程を伝える:何に気づき、何を試し、どこで迷ったのかを、写真や動画と言葉で。
環境設定の意図を言葉にする:なぜその環境を用意したのかを伝えると、汚れやケガの見え方が変わる。
けんかやケガも、育ちの途中として伝える:載せる基準は「伝わりやすいか」。折り合いをつけていく過程を伝える。
先生同士で語り合う場と素材をつくる:ドキュメンテーションと付箋機能などで、参加できない職員も一緒に考える。
小さく始めて、子どもと一緒に、つくり変え続ける:環境は、つくって終わりではない。手の届く範囲から。
「泥だけを持ち帰らない」。その言葉の裏にある「探究のストーリー」と「成長のワクワク」を、保護者や仲間と共有すること。それが、保育の質を高める第一歩です。
次回のご案内|Lab.2「子どもにとってICTは本当に悪なのか?」
気になる回だけの参加でも大丈夫です。次回のLab.2は、こちらです。
日時:2026年11月2日(月)16:00〜17:30
テーマ:子どもにとってICTは本当に悪なのか?
サブタイトル:インクルーシブ保育と発達支援の視点から考える
形式:オンライン(Zoom)・参加無料・録画配信あり
お申し込みは、各回の開始時間まで受け付けています。園内研修・ワークショップのご相談や、園庭づくりのご相談も、お気軽にどうぞ。








