コラム

2026.09.01

ドキュメンテーションとは?保育での意味・目的とおたよりとの違い

ドキュメンテーションとは?

保育のドキュメンテーションとは、子どもの育ちや学びの過程を写真・動画と言葉で記録し、保護者や保育者と共有する手法です。

神戸大学の北野幸子教授は、ドキュメンテーションを「乳幼児期の保育現場での子どもの育ちと学びを可視化し、保護者に伝達するために作成された記録」と定義しています(北野幸子『ドキュメンテーションとは』2020年)。

なお、IT分野で「ドキュメンテーション」というとシステムや業務の「文書化」を指しますが、保育のドキュメンテーションはそれとは別の意味で使われています。

ドキュメンテーションの3つの目的

子どもの育ちを見える化する

ドキュメンテーションで残すべきなのは、「何をしたか」ではなく「何を感じ、何を考えていたか」です。子どもの小さな成長や挑戦の跡が見逃されずに残ることで、結果だけでは見えない子どもの育ちが見えるようになります。

保育を振り返り、次の保育につなげる

記録を通して保育者同士の視点が交わり、「次はどんな環境を用意しよう」という議論が生まれます。育ちを可視化し、対話が生まれ、それが環境設定や保育の実践につながり、また新しい育ちが見えてくる。この循環が積み重なっていくことで、園全体の保育の質のばらつきは少しずつ縮まっていきます。

保護者・先生間での対話を生む

子どもの育ちを具体的に伝えることで、保護者との信頼関係が生まれます。ある幼稚園では、伝える内容を「やったこと・成果」から、「先生の想いやねらい・子どもの姿・そして先生自身の悩みや迷い」に変えたことで、保護者から「素敵な取り組みですね」「応援しています」というコメントが届くようになりました。結果として生まれたのは、共感と応援の関係です。

ドキュメンテーションの始まり|レッジョ・エミリア・アプローチ

ドキュメンテーションは、イタリア北部の都市レッジョ・エミリアの幼児教育から広がった手法です。

第二次世界大戦後、レッジョ・エミリア近郊では市民による自主運営の学校づくりが始まり、1947年にはヴィッラ・チェッラの学校が開かれました。この動きを間近で見ていた教育者ローリス・マラグッツィは、1963年に市が最初の公立幼児学校を開いた際に協力を求められ、市の乳幼児施設を実験と革新の場としていきました。

レッジョ・エミリア・アプローチを支える要素のひとつとして、子どもが知を生み出していく過程を見えるようにする「ドキュメンテーション」が挙げられています。1994年にはレッジョ・エミリア・アプローチを国内外に広める組織としてレッジョ・チルドレンが設立され、公式サイトによると、レッジョ・エミリアの教育プロジェクトは世界145以上の国と地域と交流を持っています(出典:Reggio Children公式サイト)。

おたより・ポートフォリオ・保育日誌との違い

ドキュメンテーションと、よく似た記録との違いを表にまとめました。

【比較表】

ドキュメンテーション・おたより・ポートフォリオ・保育日誌の目的・主な読み手・単位・頻度・形式の比較表

10の姿・3要領・指針との関係

2017年に告示された「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の改訂で、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」が明示されました。

10の姿はチェックリストではなく、「この子はこんな場面で、友だちとこんなふうに関わっていた」という具体的な育ちの姿を捉えるための視点です。

写真と言葉で一人ひとりの姿を残すドキュメンテーションは、その姿を捉える方法として活用されています。

「3要領・指針の改訂に学ぶ、ドキュメンテーションをベースとした保育計画」

伝わるドキュメンテーションの3つの条件

ここでは、【株式会社なーと】代表の和泉誠先生とスマートエデュケーションが合同で行ったセミナーのお話をもとに、伝わるドキュメンテーションの3つの条件を紹介します。

条件1 「バッタを捕まえました」で終わらない

よくあるドキュメンテーションには、こんな一文が添えられます。

「今日、近くの公園に昆虫探しに行きました。草むらの中にバッタを見つけた◯◯くんは上手にバッタをつかまえていましたよ」。

これは事実として間違っていません。けれど、これはほとんど「事象の説明」にすぎません。どこに行って、何をしたか。そのことは、実は保護者も子ども自身もすでに知っていることが多く、わざわざ記録として伝える必要性は高くありません。

同じ写真に、こんな言葉を添えるとどうでしょうか。

「みてみて!」と◯◯くんがバッタを捕まえて見せてくれました。

「すごいねバッタを捕まえたの?」と聞くと

「ちがう、いっしょにおうちをさがしてんねん」と。

昆虫大好きな◯◯くんが、バッタの気持ちになっておうちに帰りたいんじゃないかと想像して、自分で考えて行動している様子に、優しさを感じました。

同じ一枚の写真でも、伝わり方はまったく違います。私たちが本当に伝えたいのは、事象そのものではなく、その子の中にある物語や思い、それが現れる姿ではないでしょうか。

条件2 「3秒で伝わる」デザインにする

もうひとつ大切なのが、伝え方=デザインです。

次の文章を読んでみてください。

「数種類の香辛料を併用し、肉や野菜などの素材に味付けをし食する、インド発祥の食べ物」。

読み終える頃には、これが何かはわかります。カレーです。

でも「カレー」とひとことで言われても、人によって思い浮かべる料理はまったく違います。写真だけでも、文字だけでも、伝わりきらないものがあるのです。

保育の記録も同じです。文字だけでは読むのに時間がかかり、忙しい保護者はゆっくり読む余裕がありません。写真だけでは、そこにある意味や意図が伝わりません。

だからこそ、写真と言葉を組み合わせ、タイトル・見出し・本文という階層で情報を整理することが必要になります。まず目に入るタイトルで興味を引き、見出しで内容の輪郭を伝え、そこから本文を読みたくなるように導く。

どれほど良い文章でも、読まれなければ意味を持ちません。「3秒で伝わる」ことを目標に置くことで、忙しい保護者にも、子どもの育ちがきちんと届くようになります。

条件3 「捏造しない」という一線を守る

言葉を添えるときに、気をつけたいことがあります。

それは、子どもが実際に言っていない言葉を、その子のセリフのように書かないことです。

写真に吹き出しをつけて、いかにも子どもが言ったかのように演出する記録を見かけますが、それは保育者の主観を、子どもの言葉に「捏造」してしまっている状態です。

保育者が感じたことは、保育者自身の言葉で書けば良いのです。

「お砂を触っている姿がとても楽しそうだと感じました」

というように、誰が何を感じたのかを明確にする。事実と感じたことを分けて記録することが、記録への信頼につながります。

研究者による考え方(北野幸子教授・大豆生田啓友教授)

北野幸子教授(神戸大学大学院)

北野教授は、ドキュメンテーションを子どもの育ちと学びを「可視化」し、保護者に伝える記録と位置づけています(北野幸子『ドキュメンテーションとは』2020年)。これまでにも、日本保育協会の「保育科学研究」で、保育ドキュメンテーションを媒体とした保育所と家庭との連携・協働に関する共同研究を発表しています。

2020年9月からは、北野教授らの研究グループと神戸大学附属幼稚園、スマートエデュケーションが、ICTを活用したドキュメンテーションツール「おうちえん」に関する共同研究に取り組みました。附属幼稚園での実証では、園と保護者との双方向的な関係づくりの手段が増えることや、園生活での子どもの姿を保護者が深く理解することが確認されています(出典:北野幸子『ICTを活用したドキュメンテーションツールの開発』2022年3月)。

大豆生田啓友教授(玉川大学)

大豆生田教授は、保育ドキュメンテーションを簡単に説明するなら「子どもたちの学びのプロセスを記録すること」だと語っています(マイナビ保育士「保育ドキュメンテーションってなに?」)。

同じインタビューで大豆生田教授は、保育ドキュメンテーションは「保護者向けの写真付きのおたより」ではないと強調しています。その本質は、子どもの学びの記録を通した対話のツールにあり、自分自身との対話、子どもとの対話、保護者との対話、保育者同士の対話の4つの場面で生かされると整理しています。そのうえで、親へのサービスとしてではなく、保育者の質を上げるための記録として作ることを勧めています。

主な著書に、『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(共著、小学館)、『役立つ!活きる!保育ドキュメンテーションの作り方』(岩田恵子氏との共著、西東社、2023年)があります。

よくある質問

Q. ポートフォリオとの違いは?

A. ドキュメンテーションは、活動の過程をクラスで共有する記録です。一方、ポートフォリオは一人ひとりの成長を綴る記録です。ただし、呼び方や使い分けは園によって違い、個人の記録をドキュメンテーションと呼ぶ園もあります。

Q. 保育所保育指針で義務づけられていますか?

A. 義務ではありません。ただ、保育所保育指針は、保育士等が保育の計画や記録を通して自らの保育実践を振り返り、自己評価することを求めており、その方法のひとつとしてドキュメンテーションが広がっています(出典:保育所保育指針〈平成29年告示〉第1章 総則 3(4)ア(ア))。

Q. 何から始めればいいですか?

A. 週1回・写真1枚からで始められます。始め方は冊子『はじめてのドキュメンテーション』で、書き方は「保育ドキュメンテーション完全ガイド」で詳しく紹介しています。

まとめ

ドキュメンテーションは、子どもの育ちや学びの過程を写真と言葉で記録し、共有する手法です。大切なのは、事象の説明で終わらせず、そこにある子どもの物語をすくいとろうとする視点。そして、写真と言葉を組み合わせて、忙しい人にも伝わるように整えるひと工夫。この二つを意識するだけで、記録は大きく変わります。

書き方を知りたい方は「保育ドキュメンテーション完全ガイド」へ

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